内陸アジア史学会

SOCIETY OF INNER ASIAN STUDIES
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 内陸アジア史学会(Society of Inner Asian Studies)は、内陸アジアを中心とする歴史・言語・文化等の諸研究並びに研究者相互の協力によるその普及を目的としています。年に一回、会誌『内陸アジア史研究』を発行しています。
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 内陸アジア史学会大会研究報告募集のご案内

 平素より本会の活動にご支援・ご高配を賜り感謝申し上げます。
 さて、今年度の内陸アジア史学会大会は、下記の要領で開催予定です。

 開催日:11月2日(土)
 場所:龍谷大学大宮キャンパス

 ついては、大会での研究発表を募集しますので、発表を希望される会員の方は、申込用紙に必要事項をご記入の上、5月末日までに事務局メールアドレスにお送りください。
 6月開催予定の常任理事会にて採否を審議し、結果をお知らせいたします。
 なお、応募多数の場合はご希望に添いかねることもありますので、あらかじめご了承いただければ幸いです。また2年連続の発表は認められておりませんので、ご注意ください。
 皆さまのご応募をお待ちしております。



本会主催のシンポジウム「モンゴル帝国史研究の現在と課題」は無事に開催されました。
 お陰様で対面の参加者は約100名、リモートの参加者も約100名を数えました。参加いただいた方々にあらためて感謝申し上げます。以下、シンポジウムのアンケートからいくつかをご紹介します。

質問と回答:
【質問】モンゴル帝国では、叔父姪婚、叔母甥婚などの近親婚はあったのでしょうか。
【回答】モンゴルや契丹は父系制社会であり、外婚制というルールがありますので、モン ゴル帝国や遼の皇族において、同じ父系集団に属する父方の親族との近親婚は、若干の 例外を除いて基本的にないですが、母方の親族との近親婚はあります。とくに母方交叉 イトコ婚(男性から見て母の兄弟の娘との結婚)は数多くあります。また父方交叉イト コ婚(男性から見て父の姉妹の娘との婚姻)は、他の父系集団に嫁いだ叔母の娘との結 婚で、これもあります。叔父姪婚のうち、男性から見て姉妹の娘との結婚は、モンゴル 帝国ではあまり見ないですが、遼の皇族では数多くあります。叔母甥婚は、父の姉妹と の結婚は外婚制のルールに反しますので基本的にないですが、母の姉妹との結婚はルー ル上は可能です。モンゴル帝国の皇族での実例はあまり知られていませんが、探せばあ るかもしれません。 [宇野伸浩]

【質問】第2建物における基壇への昇降は、南側のスロープとご説明がありましたが、通 常の宮殿(建物)の場合は、階段が多いと思うのですが、なぜスロープが用いられたの でしょうか? 当時はこういったスロープがよく見られたのでしょうか?
【回答】第2建物の調査をしたとき、漢地の宮殿建築のように、中央にスロープがあり、 その両側に階段を設けたタイプの昇降部を想定して注意深く発掘しましたが、階段は認 められませんでした。私が発掘したモンゴル帝国期の建物(宮殿以外も含め)では、階 段よりもスロープのほうが多いです。モンゴル高原とその周辺の調査例を参照しても、 スロープの昇降部をもつ建物は珍しくありません。ただ、なぜスロープが採用されたの かは、よくわかりません。[白石典之]

【質問】辺境と中央性について興味をそそられる発表をありがとうございました。
1. モンゴル語資料が支配者層によってウイグル語資料が被支配者によって書かれたとい うことは分かりましたが、ウイグル語資料の書き手が社会の末端と言っていたことにつ いては少し疑問に思いました。発現する資料の量からしてもウイグル語資料の書き手の 方が圧倒的に多く、ごく一部を除く社会的に高位の人間もウイグル語で書いていたりは しなかったのでしょうか。
2. 漢文が書かれた紙の裏や仏典の行間に落書きのように書かれているという事例から考 えられることとして、(現代人が紙の切れ端にパスワードをメモして用が済んだら破って 捨てるように)機密性から他人に読まれたくない文章を捨てるつもりで書いていたという 可能性はないでしょうか。
【回答】1. シンポジウム当日はモンゴル語・ウイグル語資料の性格を理解していただくた め、両者の性格付けをやや単純化しました(モンゴル帝国では、チンギス王族以外は全 て被支配階級とみなすこともできます)。もちろんモンゴル帝国に出仕して高位に上っ たウイグル人もおり、彼らが出資して元朝治下で印刷させたウイグル語仏典の例がトゥ ルファンから発見されています(小田壽典,「1330年の雲南遠征余談」『内陸アジア史 研究』1, 1984)。ただし,そのような例はトゥルファンや敦煌出土のウイグル語文献全 体からすると数量的に稀少です。なお梅村坦「13世紀ウイグリスタンの公権力」『東洋 学報』59-1/2, 1977では、ウイグル語でベグ bäg と呼ばれた"末端"官人の諸相が扱われ ており、彼らが担当した物資徴発制度の実態を分析したものが Matsui, Berliner Turfantexte 48 となります。
2. モンゴルの駅伝制は長距離・短距離の移動交通のために多大の便宜を提供するので、そ の利用は大きな特権であり、濫用防止のため駅伝利用許可証も使用後には回収されるこ とが原則でした(世界史教科書でよく取り上げられるパイザ(牌子)は身分証であり、 これだけでは駅伝は利用できません)。また前近代には、紙はたとえ反故となっても貴 重品でしたので(著名な敦煌文書も寺院で不要となった反故紙を退蔵していたもの)、 シンポジウムで提示した資料も実効文書の内容を記録したものであった可能性が高く 、「捨てるつもり」のものであったとはやや考えづらいところです。なお漢文仏典の裏 面や行間を利用したウイグル語資料は多数見つかっており、多くは落書きや手習いに属 します(これらもウイグル人の文化や仏教信仰を反映する資料となります。例えば松井 の英語論文 https://doi.org/10.1515/9783111326306-006 などご参照下さい)。その一方 で、「機密性」を考慮して書いた人物の名を後で抹消したような文献もあります(SUK, Mi09など)。[松井太]

【質問】フレグらの夏営地でもあったハマダーンの近くのチャガンナウルやタブリーズの 近くのウルミイェ湖とかの湖沼堆積物とかの研究はどのくらい進んでいるのでしょうか?
【回答】ご指摘の通り、フレグ・ウルスの宮廷移動の幹線に近いウルミイェ湖では湖沼堆 積物に基づく古気候学研究が進んでおり、私も注目しています。管見の限りでは、現在 までに公刊されている研究は時間スケールが長大でなかなか歴史研究には応用しがたい のですが(例えば以下の論文: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1367912022003182#ab005)、今後の 研究に期待しています。ウルミイェ湖以外にもイラン国内のいくつかの湖で古気候研究 が進められていますし、近隣ではトルコ領内において、湖沼堆積物や花粉、年輪、石筍 といった多種の古気候データが解析されており、こちらも参照できる状況にあります。[ 諫早庸一]

【質問】「モンゴルの平衡」によって,特にインド方面において貿易の利潤がそこまで得 られなくなったという主張について,こうしたいわゆる「経済的不況」とも呼べるよう な世界的状況が,モンゴル帝国,特に元朝の崩壊に関わるような14世紀の危機の一部を 構成していると述べることはできるでしょうか。またこの「経済的不況」は,元朝の南 海貿易については,あるとすればどのような様相が見られるでしょうか。
【回答】 こちらに関しては今後の研究の進展に俟つところが大きいのですが、アフロ・ユ ーラシア規模での金銀換算比率の平衡状態や、インドにおける金価値の下落などの論点 については、ピーター・ジャクソン先生が近著 From Genghis Khan to Tamerlane: The Reawakening of Mongol Asia (New Haven: Yale University Press, 2024) でまとめられて います。元朝につきましては、黒田明伸先生の『貨幣システムの世界史』文庫版 (岩波 書店, 2020年) 以上の議論はできないというのが正直なところです。モンゴル帝国崩壊後 、ユーラシアの多地域が銀不足に苦しむのは事実ですが、銀の流出入を時として過剰に 許したモンゴル帝国の銀流通システム自体が帝国に危機をもたらしたのかどうかについ ては、現時点では答えを持ち合わせていません。[諫早庸一]

【質問】モンゴル帝国史研究の課題として、日本の研究が海外で、あまり参照されていな いというのは、最近よく聞くのですが、これについて具体的な取り組みなどがあるので しょうか。
【回答】最近の研究者は、英語、ロシア語、中国語、モンゴル語、トルコ語などで研究成 果を発表しており、The Cambridge History of the Mongol Empire (2 vols, 2023) にも数 名の日本人研究者が寄稿しています。外国語によるさらなる発信の努力が必要というこ とでしょうか。[主催者]

 *他の質問については今後の研究をお待ちください。

コメント・感想:
・多岐にわたる報告があり、消化困難ですが、示された文献を手がかりに学習を進めます 。
・モンゴル帝国の幅広い内容で非常に興味部会と思いました。登壇者が全員男性だったの が残念でした。この分野には女性研究者は少ないのでしょうか。→ この点については 総合討論のなかで司会者から丁寧な説明がなされました[主催者]
・育児でなかなか研究会にでられない日々が続いており、妻はよりその苦労が多いようで す。モンゴル史研究はまさに多国籍で、海外調査も多く必要になりそうです。その面で とりわけ女性のこの分野の参画はおくれているのかもしれない、ということも気になり ました。(もちろんすぐれた女性研究者は多くいるわけですが)今日の登壇者がすべて 男性でしたので。。。そのあたりの参画へのハードルを下げるとりくみもモンゴル史研 究の進展にとって重要に思いました。(デジタル化はその点で大いに助けになるものと 思いますが)([司会の]舩田さん、リスポンスありがとうございました。)
・個人的に女真の大清帝国を調べている者ですが、遊牧民族モンゴルと通底するところが 幾つか感じられて有意義でした。
・勉強になりました。ありがとうございます。
・私は大学1年生でまだまだ研究分野も決まっておらず無知な存在であったが、モンゴル 帝国史を様々な視点から見れたというのは非常に良い機会であった。
・著作で知っているそうそうたる研究者の発表が拝聴できて、とても有意義でした。この ようなシンポジウムがあれば、また参加したいと思います。
・大変有意義な報告でした。ありがとうございました。
・感想です。専門は中世イギリス経済史です。大学では世界経済史の講義をしています。 興味深い授業でした。また拝聴させていただけますと幸いです。
・すばらしい企画をありがとうございました。今後とも同様に色々と企画していただくと ありがたいです。
・モンゴル帝国や各ウルスの研究について、自分があまり意識したことのなかった視点を 通して知る事が出来ました。モンゴル帝国の重層さ奥深さを改めて認識したので、全体 を見る大局観をもちつつ、モンゴルや中央ユーラシアの歴史を深く掘り下げていきたい と思いました。
・本日「モンゴル帝国史研究の現在と課題」について参加させていただきました。本シン ポジウムでは、モンゴル帝国史を文献史料学的側面・考古学的側面・地理学(地図)的 側面・環境(気候)(文化)的側面などあらゆる角度からアプローチした報告であり、 いずれも大変興味関心を抱かせるものでした。

  歴史学・歴史研究においては、多角的な視点・視野をもって考察、検討を行うことが 重要となります。本シンポジウムにおける各報告は、まさにこの多角的視点、多様なア プローチ方法を示すもので、私自身本会を通して、歴史学・歴史研究に対する認識を再 考させられました。
  本会(シンポジウム)は、私にとって大変有意義な機会となりました。本日は、報告 者をはじめ、本会の運営及び関係者の方々、ありがとうございました。
・とても興味深く、関心のあるテーマ、モンゴル帝国の研究について多く知ることができ てよかったです。
・モンゴルの歴史料理の事を執筆しているので参考になりました。
以上、アンケートにご協力いただき、ありがとうございました。今後の企画の参考にさ せていただきます。

関連情報:
○「混一疆理歴代国都之図」
 シンポジウムの第4セッションで取り上げられた「混一疆理歴代国都之図」については 、龍谷大学所蔵の地図をネット上で閲覧することができます。この画像は鮮明で細かな地 名も判読することが可能です。
閲覧するには、まず普通に「龍谷大学図書館(ホーム)」で検索して開き、画面左下「 龍谷蔵(デジタルアーカイブ)」⇒ 画面右下「混一疆理歴代国都之図」⇒「資料閲覧」と 進むと、図が出てきます。そこをクリックすれば拡大することも可能です。
URLは下記の通りです。
https://da.library.ryukoku.ac.jp/collections/kyourizu.html



 2024年7月18日・19日 北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター夏季国際シンポジウム案内

 "The Crucible of a New World? Russia’s Borderlands at the Dawn of the Twentieth Century"
(新世界の坩堝?20世紀夜明けのロシア境界地域)

 日時: 2024年7月18日(木)・19日(金)
 会場: 北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター(対面のみ)

 帝国の支配が緩むとき、境界地域では何が生まれるのか。ロシア帝国の境界地域から、ユーラシア大陸の20世紀の夜明けを考えます。
 Using the borderlands of the Russian Empire as a case study, we will examine the rise of alternatives in various forms as a result of the Empire's decline. How did these new trends and activities in the borderlands work with, or hinder, new trends such as socialism, nationalism, continued imperial power, etc. that would dominate the twentieth century?
 We invite leading scholars to debate this question, looking forward to a new global history from the Eurasian continent!

 プログラム:
 https://src-h.slav.hokudai.ac.jp/sympo/2024summer/







 声明文 ロシア軍のウクライナ侵攻に断固反対します

 内陸アジア史学会は、大興安嶺から中央アジアを経て東ヨーロッパに至る広大な草原地帯を含む、ユーラシア内陸部の歴史を研究する学術団体です。今日のウクライナと南ロシアは、このユーラシア草原の一部であり、古来、スキタイをはじめ、内陸アジアとかかわりの深いさまざまな文化が繁栄してきた地域です。
 今般のロシア軍によるウクライナ侵攻は、この地域に住む人々の生命・生活を脅かし、豊かな歴史と文化を破壊しようとする暴挙であり、私たちは強い怒りと深い悲しみを覚えます。また、ロシアとウクライナが、草原の遊牧文化を含む多様な文化の影響を受けながら、互いに共通性と差異のある歴史を歩んできたにもかかわらず、ウクライナ民族・国家の独立性を否定する一方的な歴史観によって侵攻が正当化されていることは、看過できません。
 私たちは、ロシア軍の即時撤退を強く求め、ロシアとウクライナの歴史研究者による自由な研究、日本を含む諸外国との自由な学術交流が継続されることを切望します。
                     2022年3月5日
 内陸アジア史学会理事会有志

 The Nairiku Ajiashi Gakkai (Society of Inner Asian Studies) is an academic organization that studies the history of inland Eurasia, including the vast steppe region from the Greater Khingan Range through Central Asia to Eastern Europe. Ukraine and Southern Russia are part of this region, where various cultures with close ties to Inner Asia, including Scythian cultures, have flourished since ancient times.
 We are deeply angered and saddened that the outrageous invasion of Ukraine by Russian troops threatens the lives and livelihood of the people living in this region and attempts to destroy its rich history and cultures. We cannot overlook the fact that the invasion is justified by a one-sided view of history that denies the independence of the Ukrainian nation. The history of Russia and Ukraine, influenced by diverse cultures including those of steppe nomads, has not only similarities but also differences.

                     March 5, 2022
 Members of the Board of Directors of the Nairiku Ajiashi Gakkai

 声明文 日本学術会議会員任命拒否問題に関する声明

 日本学術会議が推薦し10月1日付で就任する予定であった新会員候補者のうち、6名が内閣総理大臣によって任命されないという事態が生じました。
 内陸アジア史学会は日本学術会議協力学術研究団体の一つであり、本学会の会員は、学術会議による提言等の作成や社会連携など、さまざまな活動に参加・協力してきました。私たちは、日本学術会議が政府から独立して職務を行うことにより、学術と社会の発展に貢献してきたと評価しています。学術会議の活動の基盤である会員任命が、学術会議による選考に沿わない形で行われることは、学術会議の自律性を損ない、政府と学術界の関係を歪め、学問の自由・言論の自由を傷つけうるものであり、現状は深く憂慮されます。
 私たちは、日本学術会議法および同会議が10月2日付で提出した要望に則って6名の会員候補が速やかに任命されることを求めるとともに、日本学術会議の独立した活動が今後とも維持されることを望みます。

                     2020年10月13日
 内陸アジア史学会 会長 柳澤 明
 常任理事有志

*これ以前の更新履歴はこちらをご覧ください。

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